大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和30年(オ)919号 判決

和歌山県御坊市薗三八一番地の二

上告人

井上豊太郎

和歌山市和歌山県庁内

被上告人

和歌山県選挙管理委員会

右代表者委員長

小滝徳五郎

右当事者間の選挙無効訴訟事件について、大阪高等裁判所が昭和三〇年八月二六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由第一点及び第二点について。

論旨は、原判決は選挙の本質を正解せず、選挙が選挙民のやる仕事であり、選挙管理委員会はその事務を執行するだけである関係の本末を顛倒して、本件の場合に公職選挙法二〇五条を適用しなかつたのは、同条の解釈を誤つたものであると主張する。

選挙が選挙人の集合的行為であり、選挙管理委員会はその事務を管理するものであることは、所論のとおりである。しかし公職選挙法は、個々の選挙人の違法行為は罰則の適用によつてこれを防止しようとしているのであつて(例へば二三六条、二三七条)、これらの個々の規定違反が行われたからといつて、直ちに選挙を無効とする趣旨ではない、ところで、選挙の管理執行に関する規定は、選挙全体の自由公正に関係があるのであつて、原判決が選挙無効の原因を主として管理執行の規定違反と解したのもそのためであり、その見解は正当である。それ故、原判決には所論のように公職選挙法二〇五条の解釈を誤つた違法はない。論旨は、また原判決の理由不備を主張するけれども、その実質は原判決と異なつた見解に立つて、原判決を非難するに帰し、採用することができない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)

昭和三〇年(オ)第九一九号

上告人 井上豊太郎

被上告人 和歌山県選挙管理委員会

上告人の上告理由

第一点 本件の事実干係わすなわち昭和三〇年一月二六日施行せられた御坊市会議員の選挙に際し合計二一票の投票場入場者と投票数の差異が生じ結局二一票不足即ち欠票を生じたこの事実わ選挙の公正を害するもので公職選挙法第二〇五条に該当する事実であつて他に救済の途を設けてないから之を無效選挙として選挙をやり直さねばならないものと信ずるとの上告人の意見に対し原審わ適切なる理由を示すことなくして上告人の意見を排斥し請求棄却を言渡した上告人わ之を不服として当審の判断を求むるものである。

凡そ判決に理由を附するを要することわ法の明文の存する処であり理由を脱落した判決を見た例わないが、現行憲法下の判決の理由わ少くともその結論を導き出すに十分であつて且合理的なものを備えた実質的理由でなくてわならない之なくしてわ判決に理由を付したものと言えないとするのが上告人の持論であつて正当な見解なりと信じている。

本件に於て原判決わ何故に二十一票の欠票ありとするもその選挙を無效とするに及ばぬかの問に対する答として十分な理由を備えておらないものと認めらるる。

原審の裁判官わ選挙の本質を理解しておらない。

選挙事務を選挙管理委員会がやる点だけを頭において判断してゐるにすぎない。

原判決に所謂――例えば官憲その他による甚だしき弾圧干渉妨害又は広範囲に亘る買収誘惑等のため到底選挙法の理念とする自由公正な投票が期待しがたいような事由のある場合」に局限すべき旨を説かれているがこれを別の詞で言いあらわすと選挙管理委員会が管理不可能の場合と云うことになる。この考を研討してゆくと選挙わ選挙民のやる仕事でその事務を管理委員会が執行するだけである関係の本末を顛倒し事の軽重の判断につき正逆をとりちがえた考に立脚した意見で之わ由々しき誤解誤見でけつして適正な判断とわ言えないと信ずる。

第二点 本件上告の骨子わ民事訴訟法第三九四条にいわゆる判決に影響を及ぼすこと明かなる法令の違背あることに該当するとして、為さるるものであつてすなわち、公職選挙法第二〇五条に該当すべき案件なるに之が法意に反し且つその解釈が正義に反し選挙の公正をみだす結果を誘致すること明かなることに耳を藉すことなき解釈を加えて同条の適用を為さゞりしものである。之第一点に指摘したる選挙の本質を正解せざる為めに生じた過誤であると言わねばならない。

不公正な事実が見えないからと言つて不公正を生ずる虞ある状態におかれていることが已に選挙の公正が害せられている事なのであり、選挙の実情を洞察することなき机上の判断と云うの外なき原判決わ破棄さるる外わない。

原審即ち公職選挙法第二〇五条の解釈をあやまつている。

以上

(昭和三十年十月八日附)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例